忘れていた感覚が、息をする。

Breath

風景は、人を忘れていない

    どこだったかも、いつだったかも思い出せないのに、ふとした時に、体の奥で風景がふくらむことがある。

    まばたきみたいに一瞬で消えてしまった、
    でも、たしかに通り過ぎた風のような記憶。

    それは子どもの頃だったかもしれないし、
    昨日、家へ帰る途中だったかもしれない。

    朝の光だったような気もするし、
    木漏れ日のゆらぎだったような気もする。

    はっきりとは思い出せないけれど、その風景は、今もどこかで呼吸をしているような。記憶のなかで形を変えながら、ずっと私の内側に息づいている。

    言葉にすれば、「懐かしさ」や「やさしさ」といったものになるのかもしれないけれど、本当は名前のつけようのない何か。

    まばたきの間にすれ違った風景たちは、私の記憶のなかで音もなく沈んでいって、いつか、思いもよらない場面でふわっと浮かびあがる。

    見えないけれど、消えていない。
    それらは、人の心のなかにだけ咲く、静かな花のようだ。

    季節がめぐるように、
    また、どこかで出会えるかもしれない。

    私のなかの風景。

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