ポケットに泥のついた石が潜んでいても、手を入れるまでは気づかない。
指先に泥のざらつきを感じる。けれど、それをすぐに洗い流すこともできず、手のひらにのせたままの石のせいで、泥だらけの私の手はなにも触ることができない。
ポケットの中も、泥だらけだ。
晴れの日も、雨の日も、どんなときも私の朝はきちんとやってきて、7:30を指せば、いつもと同じようにリビングには私ひとりになる。

リビング。
手帳を開く。
やがて掃除機の音が鳴り、温かい飲み物がテーブルに置かれ、私はイスに座って、それをゆっくりと口に含む。
すると、洗濯機に呼ばれる。
ひとつひとつ洗濯物を手に取り、
「この靴下、きれそうだな」とか
「このTシャツ、まだ着てたんだ。新しいのを買わなくちゃ。」
と、家族の変化をこんなところで確認する。
私の頭の中でなにを考えようと、
私の心がどんな渦を巻いていようとも、
今日も変わらない朝はやってくる。
そして、変わらない明日の「朝」もまた、約束されているのだ。
我が子を「愛しい」と声に出し、
家族を「宝物」と文字に起こし、
当たり前すぎて埃をかぶりそうな事ごとに「ありがとう」の気持ちをのせ、朝の空気に浮かべる。
みんなでおいしく食卓を囲み、
子どもたちには、広がる空の深い青さを見せてあげたい。
「私たちはね、たくさんの数え切れない命の連鎖の中の、たった一部なんだよ。」と。
そのたった一部から、どれほどの光を放つことができるのか。
見せてあげたい。
見てもらいたい。
泥のついた石を、ただ遠くへ投げ捨てるのではなく、じっと手のひらに収めながら。
◇
AM 7:30。
いつもと変わらない今朝も、手帳は開かれる。
そして、日常という奇跡が重ねられていく。
